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『PopCrush』インタビュー

by Erica Russell

(日本語訳)

 北出菜奈は2002年、弱冠15歳の時にソニーミュージックのオーディションで優勝し、その後大きくブレイクしました。そしてこの作詞も手掛けるシンガーは、あっと言う間に音楽業界の中でファッションアイコンとなり、ロックスター的な姿勢とパンクロリータ的な特徴を併せ持ち、ティーンエイジャーに熱狂的な支持をされました。

 人気アニメ「鋼の錬金術師」のテーマソングとして使われたヒット曲「消せない罪」を収録した2005年リリースのデビューアルバム「18 -eighteen-」は、パンキッシュでメロディアスなポップロックな作品です(特にその成功はティーンやアニメファンの間で知られています。このアルバムは米国でもTofu Recordsを通じて後に発売されています)。セカンドアルバム「I scream(2006年)」、サードアルバム「Bondage(2009年)」は、彼女の持っていた激しいロックの側面がさらに押し出された作品で、ソロ活動休止後に結成したパンク、グランジ的なバンド「Loveless」や「THE TEENAGE KISSERS」で表現されたような、より激しいサウンドをこの頃すでに模索していたのだと思います。

 ソロ活動再開を決意し、2016年秋に2曲入りシングル「Bad Babe’s Dreamer/Isolation」を(ライヴ会場限定で)リリースした後、2017年5月3日に4枚目のスタジオ録音によるソロアルバム「VIOLET BLAZE」をリリースしました。

 Robert de Boronという日本のヒップホップシーンで活動しているプロデューサーと一緒に制作された「VIOLET BLAZE」は、北出菜奈がロックスターように尖った部分を持ったまま、真のJ-POPプリンセスに生まれ変わったことを感じ取れます。エレクトリックなアルバムですが、「Make-Believe」や「Shine Drops」のような曲は、甘い輝きがキラめいています。その一方で、「Bad Babe’s Dreamer」や「Nasty Radio」はJ-ROCKが持つ攻撃的な性格を備えたハイエナジーなダンスアンセムとなっています。このアルバムの他の曲では、「Just a Day」「Saddest Song」「Borrowed Time」では、キラキラと輝くような楽曲に乗って、心がホッとするような歌声で、メロディを自由に操りながらエレクトリックバラードを魅せてくれています。

 彼女は今年の秋9月に、ガールズパワーを持った女性アーティスト達による「Bad Grrrls’ Night Out #2」というイベントを開催します。

 ソフィア・コッポラの映画への愛や、彼女がお気に入りの日本のストリートファッションブランド、なぜ彼女のニューアルバムには「抑圧されたものへの怒り」が込められているのか、北出菜奈は語ってくれました。


― 「ヴァイオレット・ブレイズ」は、かつてのアルバムの音と比べるとかなり異なります。ポップなサウンドは何に影響を受けたんでしょうか。

 昨年ソロ活動を7年ぶりに再開したんだけど、以前と同じことをしたくなかったのと、新しい試みにチャレンジしたかったの。今回のアルバム「ヴァイオレット・ブレイズ」はロバート・デ・ボロンという日本のジャジーヒップホップシーンで活躍しているトラックメーカーと作品を作りました。彼と曲作りをしていく中で、彼は単なるジャジーヒップホップのトラックメーカーではなくて、優れたメロディメーカーであることも分かったの。彼はありとあらゆる音楽をよく知っていて、それは1950年代~現在に至るまでのロック、ソウル、レゲエ、ヒップホップ、もちろんポップスも含めてね。だから私は彼に新しい音が欲しい、かつてと同じような音楽は作りたくないって言ったの。彼は私のためにたくさんの曲を作ってきてくれて、そこから私が選んで。私たちはそんな作業を長い間ずっと繰り返してきたの。気が付くと一年が経っていたけどね。そして最終的に欲していた楽曲が出来たと確信したわ。

― ロックからポップへの路線変更をファンはどのように楽しむか関心がありましたか? また、ポップアルバムを作りだすことはロックアルバムを作ることと比較してより一層のチャレンジだったのでしょうか。

 私にとって、ロックって単にサウンド面だけでなくて、ロックスピリッツあるかどうかということが重要なの。例えば、ジョンレノンのアルバムのイマジンとかも愛に満ち溢れているけど、実はかなり攻撃的な精神も持ち合わせていると思うし、ニルヴァーナのアンプラグドもアコースティックだけどとてもロックスピリッツがあふれていると思う。もちろんヴァイオレット・ブレイズは一種のエレクトロニックなアルバムだけど、精神的にはロックアルバムだと思っている。実際、Nasty Radioとかとてもロックの力を持った曲だと思わない?

― アルバムのどの曲が最もお気に入りでしょうか。

 「Make-Believe」はサウンド的にも新しい試みでもあったし、気に入ってるわ。最初は、みんなが受け入れてくれるか少し心配だったけど、レコーディングで何度も歌っているうちに、そんなことは気にならなくなったわ。

 あとは「Just A Day」には思い入れがあるかな。これは実は男の子と女の子のことを歌ったものではなくて、2人の女の子の話なの。私が中学生だった時、親友がいたんだけど、彼女は心の中に茨を抱えていたの。この歌は私とそんな彼女との歌。今回アルバム「ヴァイオレット・ブレイズ」の歌詞を書くにあたって、今まで書き溜めてきた歌詞帳を見返したんだけど、15歳の時に書いたその歌詞を見つけて、それに加筆したものなの。当時は彼女も心の中にいろいろな悩みを抱えていたけど、今は結婚して、旦那さんと子供と素敵な生活を送っているわ。

― 「メイク・ビリーヴ」のミュージックビデオの撮影はどんな感じだったのでしょう?

 このMVはベトナムのホーチミンで撮影したの。MVはエナジーとパワーがあふれる場所で撮影したかった。ホーチミンは、昼間から仕事もしないで道端でコーヒー飲んで談笑している人がたくさんいたり、車も平気で反対車線を走ってくるの。だけど私は何か街自体にある種の自由と生命力みたいなものを感じたわ。私はそこでとても大きなパワーをもらった気がした。とても暑くて溶けそうだったけどね。

― 「ボロウド・タイム」はどうしょう。とても力強さを感じます。

 「ボロウド・タイム」は愛する人、それは恋人だけでなく、親や友人も含めてなんだけど、まもなく天国へ向かってしまう愛する人と一緒に過ごす最期の別れの時のことを歌ったもので、この歌詞はそういった内容のものだから、あなたも余計に叙情的に感じたかもしれない。

 このアルバムのテーマは実は「怒り」です。怒りは外に向かうこともあれば、自分の内に向かうこともあると思うの。私の怒りは決して暴力的なものではなくて、心の中に潜むもの。ヴァイオレットは東洋では聖なるものであり、高貴な色を意味しているけど、「ヴァイオレット・ブレイズ」とは、血と感情が私の心の中で静かに炎が燃え上がっていることも意味しているの。

 ここ日本の社会でも随分女性が自由になったと言われるけど、私はそうは思わない。世界中を見渡してもても、女性や子供や弱者がまだまだ抑圧されているように感じる。このアルバムのテーマはそう言った抑圧に対する怒りがテーマだから、アルバム自体がエモーショナルに感じるかもしれない。

― あなたは以前から、パンクやゴスロリスタイルの服を着ていたことで良く知られています。アーティストであるあなたにとってファッションはなぜ重要だと思いますか?

 誰でも人間って多面的だと思うの。毎日ステーキばかり食べていると、次は違うものが食べたくなるでしょ。それと同じで、わたしも時々こういう服を着たいと思う時もあれば、また別の日には違う服を着てみたいと思う。洋服はその時々で可愛いと思うものを着ているだけ。歌詞を書いたり、ライヴをするのも好きだけど、可愛い洋服を選んだりしているのも幸せなひと時なの。

― 日本のストリートスタイルやファッション、ブランドで何がお勧めですか。日本のファッションスタイルが好きな人たちが注目すべき新しいファッションはありますか?

 今はステージでは、オーダーメイドで作ってもらった東佳苗ちゃんの縷縷夢兎のハンドメイドニットを着ることが多いかな。

 あとは、「MILK」や「Katie」がお勧め。一見可愛くてガーリーだけど、ロックスピリットが感じられると思うの。ファッションは常に変わり続けるものだけど、これらのブランドは自分たちのスタイルを常に保ち続けているの。流行には流されず、それでいて常に新しいことにチャレンジしている。とても格好良くて、素敵だと思う。

― ソフィア・コッポラの映画「マリー・アントワネット」に影響を受けたと思いますか?私はあなたのビジュアルに、大好きな彼女の映画を連想するのですが。

 ソフィア・コッポラの映画はどれも好きで、インスピレーションを受ける時もある。マリー・アントワネットは悲劇のお姫様なのだけど、彼女って自由で型破りで、パンクロックのように攻撃的なところを感じるわ。ソフィア・コッポラ監督のこの映画の話を聞いた時、興奮して映画館に観に行ったわ。縷縷夢兎の東香苗ちゃんのディレクションでZINEを制作したんだけど、マリー・アントワネットの影響を受けていると思う。

― アメリカやヨーロッパのアーティストで好んで聴いているアーティストは誰ですか?

 聴いている音楽はたくさんあるけど、ガレージ、オルタナティヴなどが好きかな。最近ライヴを観に行ったのは、Madonna、Savages、Chvrches、The 1975、Crystal Castles、Hinds 、Coldplayあたりかな。あとジャパノイズ(日本のノイズ音楽)も好きでよくライヴを観に行くわ。Velvet Underground & Nicoも大好きで、「Sunday Morning」をカバーしてレコーディングしたり、ライヴでも演奏したわ。

― 日本のアーティストでは誰がお勧めですか?

 うーん、やっぱり北出菜奈かな(笑)。9月に私が東京で主催する「Bad Grrrls' Night Out」というイベントがあって、アーバンギャルドの浜崎容子ちゃん、ハナエちゃん、惑星アブノーマルを誘ったの。良かったらみんなにも聴いて欲しいな。興味があったら、YouTubeやiTunes、Spotifyなどでチェックしてみてね。

― アメリカにライヴをしに来てから随分時間が経ったと思います。また近いうちにアメリカでライヴをしたいと思いますか?

 実は、結構アメリカには遊びに行ってるの。去年はサルベーション・マウンテンンにも行って来て、そこで撮影した写真でポストカードブックも作ったの。あと去年はクリスマスもサンフランシスコで過ごしたわ。古着屋さんを見てまわるのが好きなの。他にもアメリカで何か可愛い場所があったら教えてよ。もちろん、私もアメリカにライヴをしに行きたいと思ってる。誰か私をライヴに呼んでちょうだい!

― 「バイオレット・ブレイズ」を聴いた後にファンの人達にどう感じてもらいたいですか?

 このアルバムは絶望と希望の両方が詰まったアルバムだと思う。誰でも絶望を感じるときはある、でも私は悲しみや痛みの果てには一筋の光を見つけることが出来ると信じている。私の歌詞は日本語で書かれているけれども、音楽は国境を越える。だからもしファンの人たちが希望を感じてくれたなら、とても嬉しく思う。

― 2000年代初頭のデビュー以来、応援し続けてくれている長年のファンに向けてのメッセージはありますか?

 これだけの長い間、世界中の方々が応援し続けてくれていることに感謝しています。心から「ありがとう」と言いたいです。来年はデビューしてから15年目を迎えるので、何か新しいことにも挑戦しようと思っています。だから、誰か私をあなたのライヴに呼んでください。アメリカでも、ヨーロッパでも、アジアでも、たとえ南極大陸であっても呼んでくれたらライヴをしに行きます。

 
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